所得税は日本の祖税制度で最も重要なものの一つであり、また、それが最近突如大衆課税として現出し、他の国では数世代にわたって漸時発達してきた諸種の問題をここ数年の間のうちに惹起せしめたのであるから、われわれの報告に、その行政運用に関する勧告をいれることも無意味ではなかろう。それにしても、われわれは、税務署の組織または税務署と国税局および中央官庁の適正な関係について各種の勧告を敢えてしようとは思わない。むしろ、われわれは納税者および税務官吏との関係がどのような方法で改善されるかを研究したのである。この分析は、所得税および法人税に関するものである。

目標制度 (The Goal System)

 あたえられた会計年度の所得税から得られる全国の見積総額に見合うだけの税収をもたらす必要に迫られて、所得税の行政担当官たちは目標額制度といわれるものを発達せしめた。その本質的特徴は、来るべき会計年度の所得税収入の推計を各税務署の管轄する各地域ごとに作成することで、1948-49会計年度において各地域の推計は大体天下り式に課せられたものである。1949-50年度は、一般的にいって各地域の推計は、まず各税務署において作成され、各地域の推計の合計額が本春予算が議会を通過したとき、東京の中央官庁で作られた全国的推計に合致するよう、中央官庁の官吏と協議した後、調整されたものである。

 いずれの場合にも、その制度の本質的な悪弊は残っている。それは各地域で税がどれだけとれるのかという推計を持出するものである。このような数字が税務署長の頭にあることは所得税の執行面に歪みを生ずることになり易い。
余程それに左右されないという決意をもっていない限り、かれが過大過小課税を避けることに対する注意が緩慢となり、推計額に応ずることが主要な目的となりがちである。会計年度の終りが近付くにつれこの傾向が特に強められる。その地域で徴収が見込額に立ち遅れていれば、頑固でない、たまたま手許に現金をもっている納税者を重く課税し支払を迫るようなこととなりがちである。一旦、会計年度の末日が過ぎ去り、また地域別の推計を徴収しなければならない時が来るのは後十二カ月あることになれば、目標額の圧力が去り、税務官庁の気が弛んで、どうにか支払わないで済んだ納税者は割りに楽な条件で決済してしまうことになり易い。税務官吏の上にこのような重圧や誘惑を課することは避けるべきことは疑いの余地がない。

 国の中央および地方の税務官庁はいずれもいかなる国家単位以下の地域における所得税収入でも、それがどの位になるかを推計する権利を、たとえそれが部内の必要にもとずくものであっても、放棄すべきであるというのがわれわれの意見である。合衆国でも所得税についてはこのような推計は作らないし、また、そこ、ここにはおそらくあるに違いないが他の国でこのような技術を採用しているところはいまだに聞いていない。この問題の核心は、総括的全国的見積総額と国家単位以下の見積額との区別にある。

 所得税は、目標額制度なくしては実施できないといわれるかもしれない。即ち、各税務署の成績を判定するには地域別推計は必要である。いや更に税金を徴収するためにはどうしても必要だというかもしれない。これが、はたしてそうであるかどうかは経験のみがよく答え得るであろう。しかし経験に徴すれば、すでに、不幸にも所得税は目標額制度と両立し得ないことが明らかである。
それなくして、機能を発揮できなければ、所得税は撤廃した方がよい。しかし、もしこの報告の付録で言及した他の手段で税務署の成績を判定することができたら、所得税は目標制度がなくてもその機能を発揮することができるというのがわれらの意見である。そして、日本の労働者、営業者、農業者がこの所得税は失敗させてはならないものだと認識したとき始めてその収入は得られるであろう。

推計税額の申告 (Declaration of Estimated Tax)

 申告納税者はその年の自分の所得およびそれに課せられる税額を推計することになっている。そして申告書を六月三十日までに提出したときに税額の三分の一を、十月三十一日までにまた三分の一を、その年の実際の所得に対する税額に調整して、その残余を一月三十一日までに支払うことになっている。

 実際には、納税者は始め過少に支払って、特に更正決定の圧力によって一月になって補填するといった形であとで多額のものを支払う。われわれは、各納税者が前年度に最終的に決定された彼の所得と少くとも同額の所得額を最初の申告書で提出し、この額に対する第一回分の税額を支払うようにすることを勧告する。これによって、かれは最初の二回分の払込みについては更正決定を受けないことを保証されることになる。付録にはある程度必要な例外があげられている。

源泉徴収 (Withholding)

 実地調査旅行のとき、納税者に質問した際雇用者はたとえかれが申告書を提出せず、源泉徴収されている場合においても、自分の所得税負担がいかなるものか十分知っていることを確認した。

 しかし、この確認は俸給袋あるいはそれに付随している紙片に明確に総収入が幾何であり、各控除はなんのためで、どの位の額であるかを記入してある場合に限られている。
われわれは、俸給、または賃銀の一つ一つの支払において、このようなことを明記すべきことを、要請しもしこれに従わなかったら雇用主を厳罰に処すべきことを勧告する。そうしなければ賃銀、俸給に対する所得税は、給料に対する非人的税に堕し、遂には個人所得税制度の崩壊の原因となるであろう。付録には、後述の農業者に関する節で述べられている。農業者からの源泉徴収方法その他源泉徴収の技術に関する数個の具体的な提案が掲げてある。

税の申告および支払 (Returns and Payment of Tax)

 所得税の申告書の提出および税額の支払について必要とする更に重要な改正は次の三つである。

a 小額納税者の申告書用紙は、かれが行う計算の種類を少くし、より簡易な用語を用いて、簡易化すべきである。われわれは一部は簡易化のために、扶養控除の算定法を基礎控除の遣り方と同じようにすべきことを既に勧告した。(第四章B節)。各申告書に税額表を付し、納税者各人が計算することを避けようと思えば、自分の税額をこの表によって決定できるようにしておくべきである。

b 所得税申告書は秘密に付せられるべきである。(現在は少額の手数料を支払えば誰でも閲覧できる。)しかし、所得額二十五万円を超える納税者について純所得申告額を示す表を各税務署に掲示して一般の閲覧に供すべきである。

c 税務署は、事実すでに税金を支払った納税者を続けて再請求することのないように、納税者から受け取った支払額の記録が立ち遅れないよう努力を更に傾注すべきである。

農業所得の課税および徴収 (Assessment and Collection of Farm Income)

 農業者は申告納税者の部類に入っているが、実際は自分で申告納税するということは殆んどない。
農業者の純所得は、税務署の管轄する地域内の各種の土地に対して税務署が設定した標準を基礎として推計されている。農業者はその申告書にこの標準に該当する純所得を記載すればよいのである。それゆえどの農業者も当年の実際の純所得を記入しないばかりかかれの農地の数年にわたる平均所得でもない当該地域の同種の農地の平均額を記入するのである。したがって、われわれは、農業者の純所得を計算するに当っては標準額とか平均額から切り離された方法が直ちにとられることを勧告する。この勧告は、住民税をもっと強化し、住民税における純所得的要素により一層重点をおくべきことを勧告した(第十一章)のに鑑みますます重要なものとなる。

 農業者による所得税の支払は、現在よりさらに一層、所得の季節的型態にもっと密接に適応すべきである。また、かれが農作物で忙しい時期に念の入った申告書を提出する義務から免かれるようにしなければならない。このような目的を達成するために、もし農業者の推計純所得の七十%以上が主食または煙草から得た収入である場合には、推計所得の申告(予定申告)をする必要はなく、主食および煙草に対し支払われる金額から税務署で計算するところによって所得税額の概算見込額を源泉徴収されるべきであることをわれわれは勧告する。その他の農業者に対しては、申告および支払の期日は二毛作地域にあっては7月31日、11月30日、2月28日、とし単作地域にあっては11月30日と2月28日にすべきである。

 この源泉徴収方法と一緒に、今、用いられている平均推計に代って農業者各人の実際の生産資料に基いてかれの純所得を推計する方法があるべきである。
税務官庁以外の各種官庁では、すでにこれらの資料及びその他の資料は利用されているから、これを最大限に使用すべきである。

 勧告された源泉徴収制度の詳細についてはこの報告の付録にあげられている。

更正決定 (Reassessment)

 中小営業者、小売商人、製造業者、卸売業者等は更正決定の嵐の中心地帯である。実際われわれが調べたすべての税務署で農業者でない申告納税者によって提出された所得税の申告書の大多数は税務官吏によって不十分とみなされている。純所得として報告された金額は税務官吏によってしばしば五十%あるいはそれ以上ときには百%以上増加されている。このことは普通少くともかなり度々納税者の家宅または帳簿を実地調査せずにまた、どのようにしてその更正決定額が得られたかについてなんら説明なしに、行われている。これはしばしば過大決定が行われているというのではなく、反対に、更正決定をした後でさえも、まだこれらの納税者の純所得は過少に見積もられているという印象を受けたのである。しかし、このような軽率な、独断的に見える方法自体が、納税者の協力を得るための障壁となっている。しかし納税者の協力がなければこのような手段に頼らざるを得ないのである。この悪循環を切り抜けるためには時間がかかる、しかしわれわれは最近の日本税務行政機構の改革並びに本報告書の付録にある詳細な提案が採用されるという条件のもとにこれをやれるという意見である。

 税務行政機構の改革というのは1949年に大蔵省に国税庁を設置し、これが国税局に対しまたこれを通じて地方の税務署に対し直接の監督権を行使することである。

 細かい勧告の中では、税務官吏が銀行の記録を調べることに関する現行規定を現在かれらが入手しているより以上に情報を得られるように改正しなければならないことを強調する。銀行預金を虚偽名義または他人名義で持つ習慣は禁止されなければならない。これらの新しい規則によって納税者が銀行預金より銀行券で持つために招来されるいかなる影響も一時的なものである。いずれにせよ、このような銀行券を退蔵することによって惹起される経済的結果は、直ちに日本銀行の適切な措置によって阻止し得るし、且ついかなる場合にも量的にいってそれ程重大な問題ではない。特に、貯蓄の顕著な減少、即ち消費支出の増加を生ずるような結果にはなりそうもない。

 税の執行にあたって必要とされ、しかも他の分野に悪影響を及ぼすことのないもう一つの重要な改革はすべての有価証券の強制的登録である。無記名証券はもはや禁じられるべきである。

 標準率の使用 — 雇用者数の如き外形標準、或いは総収入に対する純所得の推定比率の如き内部的比率は、着々と減少されなければならない。しかしこれは、納税者の「青色申告用紙」の使用に対する協力がたかまるにつれて初めてできることである。

 このような申告は大蔵省の制定する規則に従って帳簿をつけている納税者に限りそれが許される。これらの納税者は、税務官吏がその帳簿を調べないで更正決定をすることはないということを保証されるであろう。

 もし税務官庁が税法の実体規定に関する解釈を公けにすれば、更正決定と、訴願の大部分は回避できるであろう。しかし、このことは税務官吏の才腕と経験が向上発展するに応じてのみ正しく行うことができる。

更正決定に対する納税者の異議申立権 (Right of Taxpayer to Protest the Reassessment)

 所得税納税者は、更正決定に異議を申立てることを許されている現行の方法に対して二つの重要な不平を有している。第一は、高級行政官庁、また裁判所へ提訴することを許される前に納税しなければならないこと。第二に通常異議申立はかれの更正決定を行ったと同じ税務官吏に対してなされるから、(納税者の方から見れば)その官吏は同情もって且つ公平な立場でその訴えに耳をかさないだろうということである。

 租税制度が立派に確立され且つ安定した経済の上に正当に機能を発揮しているところでは、第一の規則は厳格すぎる。更正決定が不法または不当と認められる場合には、納税者は、更正決定された税額を支払わないで提訴する権利をもとことによって、審査機関の不当あるいは専断的処置から自分を守ることができるようにすべきである。もし更正決定の税額が正当であると、最終的決定がなされた場合には、納税者は普通の商業利子率より幾分高い利子を支払うことを必要とするのであるから、政府は十分に保護されている。また、提訴は、通常余分な人件費を必要とするものである。合衆国では一般にこれらのことが不真面目な提訴を防止するために十分な阻止力をもっている。しかし、かような要因は現在日本には存在しないが、そのうちには存在するようにならなければならない。しかし、それができるまでは、高級行政官庁または裁判所に提訴する前に納税することを必要とする現行の手続を継続することが必要である。しかし納税が実際に困難な場合には、税務署が納税を延期する権限を持つべきである。しかし、納税者が納税せずに提訴することを一般的に認めることは、日本の制度の将来の目的として、絶えず念頭に置くべきである。
もし、納税者と、かれの納税申告を更正決定した税務官吏との間に非公式の協議が行われた結果、意見が一致しない場合は納税者は税務署内または数税務署の県単位に付属設置される特別の協議団に事件を持出すことを許さるべきである。

 ある場合には、さらに、これを国税局の協議団に異議申立することも認められるべきである。現在は、趣旨においては、国税局への異議申立が認められているが、われわれの一般的印象はそこまで事件を押し進めるだけの価値があると考えた納税者は少いということである。

 現行制度に対する不満の結果、納税者と更正決定を行った官吏との間の紛争を解決するための市民委員会がいくつか提案されるにいたった。もし税務署内で改善が期待できなければ、このような委員会は有用であろう。しかし、問題は一度このような委員会が設立されれば税務署内の異議処理機構を改善する圧力はもはやなくなるということである。委員会はそれを設置するに至らしめた困難そのものを永続させることになろう。また委員会がいかに注意深く人選されていても、この高度に専門化された所得税の分野においては、よく発達した協議団制程旨く仕事をすることはできないであろう。その上に、委員会は自分自身の目的のためにそれを利用しようとする人に牛耳られる危険が常に存在する。それ故、われわれは所得税の行政組織の中に市民委員会を導入しないように勧告するものである。

訴訟 (Litigation)

 裁判所に租税事件がないことはよい兆候でもあり、また悪い印でもある。それは、法律が非常に注意深く作成され、小心よくよく[#「よくよく」に傍点]と遵守されていて、納税者と税務官吏がお互の相違を調和するのに余りにも訳が解っているので、裁判所の必要がないということを意味しているのかもしれない。
 しかしまた、その代りに、規則のない、または有効な審判もないゲームをやっているようなもので、裁判所に持出せるような専門的な紛争がないという意味かもしれない。
 現在日本全国の裁判所で所得税の払戻し訴訟が約百五十件あるに過ぎない。脱税に対する起訴の件数はもっと少い。これらの事実は前述した二つの可能性の中、後者の方をより多く反映している。しかし、それはむしろ過去の反映で現在のではない。1948-49年の各々に、着手された税務行政の改革によって、税に関する事件数がまもなく大巾に増加するであろうことは疑問がない。特に、最近数個月は多額の脱税者に対し徹底的な措置がとられている。

 現在のところ、司法制度および税務行政官庁には、この予想される高度に専門的な訴訟を処理するに十分な備えができていない。法務庁および税務官吏は、納税者による訴訟に対して弁護するときの協力方法についてもっと詳細に研究する必要がある。脱税者を起訴する機構の発達はまだまだ前途遼遠である。それは国税局の査察官と特別の租税検察官の協力が必要である。現在は日本にないが特別な裁判所が余り遠くない将来設置されねばならないであろう。一つの可能性は、東京高等裁判所の租税部に民事の租税事件に対する専属管轄権を創設し、その租税部員が期日を予定して全国の他の地域へ巡回旅行することである。或は各高等裁判所に租税部を設けてもよい。両者の場合とも訴訟書類の移送命令によって最高裁判所へ上訴することを認めるべきである。それよりもいい考えは、納税者の持ち出す租税事件だけを聴取するために新しい下級裁判所を創設し、東京高等裁判所の租税部への控訴と、訴訟書類の移送命令による最高裁判所への最終上告を認めるようにすることである。
 これらの提案に関する詳細については本報告書の付録に述べる。

罰則 (Penalties)

 所得税の罰則に関する現行制度は徹底的に改正を要する。当然罰則があるべきところに全然なく、或る罰則は余りに重すぎる。具体的にはわれわれは次の通り勧告する。

一 納税申告書の提出が、期限に遅れた場合はその未提出期間中は3カ月目の終りまで毎月税額の十%の罰則を課すべきである。故意の怠慢でなく相当な理由によって提出が遅れた場合は罰則は適用されるべきではない。しかし、もし提出の遅延が故意の怠慢によるものであれば、刑事犯としてその納税者を起訴することができるような規定を設けるべきである。現在は、申告書を期限内に提出しない場合に対する罰則は全然ないようである。

二 期限内に納税しなかった場合に、その遅延がいかに軽微であっても税額の二十五%を課する現行の罰則は、これを引下げ、遅延の期間に応じて伸縮させるべきである。

三 現行の税の滞納に対する年約三十一%ないし七十一%の利子徴収は税務署が納税を督促するときまでは年十二%相当額、且つそれから後は年二十四%相当額に引下げること。
  現在のように高い延滞利子率は自壊的なものである。これは納税者をして短期間のうちにとりかえしのつかない程滞納をさせる傾向をもつ。現在滞納税の量が著しく多い一つの理由は恐らくこれなのである。

 これらの勧告は必要な改正の一部も洩れない一覧表ではなく、おそらくもっと改正を要するところがあるに違いないであろう。その可能なものの若干については、付録において、納税期日の延期詐欺に対する民事罰、帳簿、記録の記入をしないことに対する罰則および払戻し手続に関連する問題と一緒に論じられている。

 現在の滞納の状況は特に重大である。而して本会計年度の残りの期間中に、滞納勘定を除去するために多くの努力を必要とする。

簡素化 (Simplification)

 税法執行上の成功の度合いはこれらの税法、命令、様式および納税者が直面するその他の問題の簡素化の度合いと直接関係がある。このことは、数百万の納税者を包含するように所得税機構の基礎を拡大した場合は特にそうである。本報告においては、法律の簡素化に多大の寄与をするような内国税法の大巾の改正が数多く勧告されている。命令もそれがさらに簡素化され得るかどうかを決定するために、絶えず再検討しなければならない。申告の必要事項、様式税表も、全て、もっともっと簡素化するために批判的建設的な眼で検討しなければならない。納税者の仕事を簡単にする材料を考案するためには宣伝渉外関係の部外専門家の援助が非常に役立つであろうと信じられる。各種の標本調査方法を利用して、果して目的がどの程度まで達成されたかをたしかめるべきである。このことは完全であるということのあり得ない仕事であるだけに、この方面への努力には少しも弛緩があってはならない。

人事 (Personnel)

 現在のところ日本では国、都道府県、市町村の税務行政において適当な訓練を受けた者の数は十分でない。このような者の募集および訓練の詳細はわれわれの研究の範囲外である。しかし、本報告の到るところでなされた種々の勧告は税務行政に当る者の持続的な且つ急速な向上が達成されない限り、その有用性を非常に損ずるであろう。
もし、われわれがこのような向上を達成し得ないと考えるなら全然違った租税制度を勧告したであろう。われわれが税務署に訪ずれ、納税者と懇談した際得た詳細な事項に関する意見は付録において述べる。新しく発足した税務講習所および事務手続の改善に対しては特に注意を払うべきである。

会計の役割 (The Role of Accounting)

 われわれの勧告する税制改革の長期的成功には日本における公認会計士の発達が肝要である。今日、日本にはこのような会計士は非常に少い。しかし今度公認会計士の資格に関して、新に制定された法律は相当標準の高い試験を行う限り、近い将来もっと発展する可能性がある。われわれは十五年間計理士の経歴のあるものは陪審式試験に合格すれば資格を与えられるという最近の改正を、この方面で開業しているものに現在必要とされている特別試験を受けることを要件とするように変えることを提案する。われわれは、大蔵大臣によって選任されている公認会計士審査会が大蔵省の一般的管轄下に設置する独立な委員会に変更すべきことをすすめる。われわれは、また、事業会社の金融面において相当の統制力をもつ証券取引委員会が事業会社の経理方法の改善をもたらすようにその大巾な権力を強力に行使することをすすめる。世界の他の諸国の、この委員会またはそれに類似した行政官庁が規定している会計の基準は、その国の会計および経理業の今日の高い水準に達するのに貢献した所は大きい。それ故、証券取引委員会が公認会計士をその専任職員として採用できるよう十分な資金を割り当てられるべきことを勧告することが適当だと考える。
証券取引委員会が地方事務所を設け、そこに公認会計士を置こうとしていることは最大限に支援さるべきである。充実した証券取引委員会の経理課は、会計の適正な基準を設定することによって、所得税法の運営の改善に大巾且つ効果的な貢献をすることができるであろう。

 租税法は、一定所得額を超えるすべての法人および個人業者の申告書には公認会計士の証明する貸借対照表、損益計算書およびその他の或る種の資料を添付することを要件とするように改正せられるべきである。又納税者が繰越または繰戻しを欲する欠損の申告も公認会計士の証明が必要であろう。

 農業以外の個人営業者にはこの報告で前に述べた「青色申告用紙」の方法で帳簿を記帳することを奨励すべきである。大蔵省は納税者が「青色申告用紙」で申告することを認められる場合記帳を必要とする帳簿の見本を公にし、この見本を広く配布すべきである。「青色申告用紙」で申告する納税者はその帳簿を検査しないで更正決定をされないであろう。また、他の個人納税者と違ってかれは純益を計算するにあたって減価償却を許されるであろう。(第六章B節参照)

同業組合 (The Trade Association)

 非常に増大した仕事の重圧と熟練した職員の不足という制約の下に、税務署の多くは小商店主、喫茶店主および他の組合構成員の所得税の徴収または課税でさえいわゆる同業組合に依存するようになった。
組合はその組合員に課せられる総税額について税務署と交渉し、また更にもし真実の規準であるにしても各組合毎に違う基準によってその総税額を組合員間に割り当てることまでするのである。

 日本の商業活動において組合が持っていると称される重要な役割に鑑み、われわれはこの制度を同情的に見ようと努力した。しかし、われわれが認めるただ一つの回答は、組合が課税の過程に関与することは完全に停止しなければならないということであると、結論せざるを得ない。かような制度は公平ということの初歩的な試練に対してさえ応じ得ないものである。しかも公平をわれらがいかに重視するかは第一章で説明したところである。この制度は、実に、しばしばボスの支配とえこひいき[# 「えこひいき」に傍点]をもたらすものであろう。

 従って、われわれは組合またはその役員が国、都道府県または市町村の税務官庁と団体交渉したり、その組合員間に税を割り当てたり、税のためにその組合員の順位を決定し、もしくは組合員間に税の割当てをすることになるような情報を税務署に提出したり、または組合員に代って、申告書を提出したり、もしくは納税したりすることを禁止するよう、税法を改正することを勧告する。

租税に対する学究的関心 (Scholarly Interest In Taxation)

 租税に関する研究がもっと重要視されればされるだけ日本の租税はもっと効果的なものとなるであろう。なぜなら、頭脳明敏な者がますます多く租税の研究に向えば、この分野におけるもっと重要なそして知性に挑戦するような問題を提起するであろう。このことは、法律および会計を実地にやっている者、大学で教授し且つ調査を続けている者、および官庁の調査部局にいる者にあてはまる。

 政府がかかる研究を促進せしめるためとることのできる簡単でもっとも役に立つ措置は所得税のみならず他のすべての税の申告から得られる大量の統計資料を、定期的に、編纂、公表することである。これは中央政府だけに対していっているのではなく、都道府県および市町村に対しても同様である。このため、政府は税の調査および行政にあたっている職員から人選して大学またはその他の税に関心をもっている人達とともに常設の委員会を設置し、どのような統計表を発表すべきか、その種類および範囲について政府に助言さすように勧告する。おそらく、最近学界実業界および政府の代表者から組織された租税団体はそのような委員会の仕事を発足するにあたって役立つものと考えられる。

 本報告の付録ではこの概説に包含されていない諸種の問題を論じている。すなわち、租税専門家およびその他による納税者の代表、税法命令、規則および司法判決の公表並びに租税に関する民間の出版物の増加の問題である。租税技術えの関心が広まるにつれ粗雑な推計や談合に基いて実施されるあい昧に規定された税を黙認するようなことはなくなり、日本においても近代的な租税制度が成熟するにいたるであろう。

[# 第14章終わり]