A 序論 (Introduction)

1 適正な税務行政の必要 (Necessity of Poper Administration)

 日本の財政組織において所得税および法人税が旨く機能を発揮するためには、その適正な執行ということが特に必要である。これらの両税は租税の脊随[#髄?]となっている。それは最も多くの納税者に影響を及ぼし、事業組織に最も大きな衝撃を与える。それはあらゆる生活態様の中に浸透する、と同時に、最も執行困難な租税である。所得税および法人税を多数の納税者に適用するためには、租税構成の簡素化を必要とする。同時に、租税負担の公平な配分の要請はその反対方向への絶えざる刺戟となる。

 所得税および法人税の適正な執行の不可避的必要性とその実現途上における実際上の困難とのこの結合は、政府に対する絶えざる挑戦となるのである。税務行政を旨く執行する責任は政府の役人ならびにその雇用者のみが負うべきではなく、賃金および給与の取得者、農業者と漁業者、小商工業者と会社の重役、自由職業者と投資家、要するに全国民にかかってくるものである。それゆえ、これらの税を適用するにあたって公正を期するにはあらゆる階層の納税者と政府との相互の協力を必要とする。

2 適正な税務行政に対する障害 (Obstacles to proper Administration)

 日本の戦後の所得税および法人税を旨く執行するには、大きな障害があった。個人所得税は富裕な少数者に適用される代りに大多数の市民に突然影響してきた。
農地改革の生んだ小自作農は、農業者であると同時に納税者となった。小額賃金取得者と小営業者は、ともに所得税の問題には無経験であったが、自作農と一緒に課税を受ける新市民層の一部となった。所得税の施行には正確な経理と記帳が不可欠であるが、その代りに、一方には帳簿と記録の欠除があるとともに、他方には、慨歎すべき帳簿と記録の重複が存在していた。

 税務行政において重要な役割を演ずる二つの職業団体、すなわち計理士と弁護士とはこの仕事に応ずる用意がなかった。計理士はその職業柄必要とされる独立した地位と伝統とをもっていなかった。また弁護士は租税事件に関しては全く無知であった。

 政府の側では、幾分かは戦争の結果として全税務事務が無組織、非能率な状態にあった。税務官吏は若年、無経験、薄給であった。かれらには旨く仕事が割当てられず監督は不行届であった。税務署は不適当な処に設けられ、建物は不備であり、照明不充分であった。税務署の諸設備は、過去においても近代的な段階には達していなかったし又殆んどないといってよかった。税務署の事務手続は恐ろしく不充分なものであった。

 政府側、納税者側とも全く不備であったにもかかわらず、その上に重大な財政状態がひかえていた。激烈なインフレーションは物価と賃銀を完全に不安定にした。これに伴う、政府の経済統制は広範な闇市場を招来した。しかも、所得税率と控除はインフレーションでない時の状態に合わせて立案されていた。実際課税所得という全概念は安定した価格水準を前提としていたのである。したがって、インフレーション状態の衝撃は脱税に猛烈な拍車をかけた。

 このような状態の下でかように大規模の歳入が徴収されたということは一つの偉業である。
しかし、基本的にはこのような徴収は二つの要因によるものであった。すなわち、軍政府の圧力と、決定された収入目標額に達するように税務署が行った大量の更正決定であった。所得税は徴収された。しかし、適正な所得税の基礎となる個人所得の客観的測定は必然的に犠牲にされたのである。

3 将来の見透し (Prospects for the future)

 したがって、所得税および法人税に関し今日当面する基本的問題は、それが果して適正に執行できるかどうかにある。もし、それが充分に執行され得ないのであれば、それよりもっと容易に執行できる他の税によって置き代えられねばならない。この問題については確信をもって答えることはできない。

 健全な所得税、および法人税の執行えの発展は開始された。このような処置は不完全で、でこぼこがある。しかし、これらの処置は適正な税務行政ということが、その目標に達しようとする望が存続する限り、達成され得る目標であるということを示すに充分な程明確にされている。

 したがって、現存する混乱と無組織の中で所得税、および法人税を旨く執行することえの挑戦に対し日本が応じうるという兆候は充分に見受けられる。この試みが失敗の悲運に会うとは考えられない。逆に、いままでの成績に徴して、日本の納税者、および税務官吏は、かれらが所得税、および法人税の執行を旨く行う能力があることを証明できる機会が与えられるべきである。

B 自発的協力と申告納税 (Voluntary Compliance and Self-Assessment)

1 納税者の実際の所得の確定 (Ascertainment of Actual Income of Taxpayer)

 所得税、および法人税は納税者の所得に課税するものであるから、必然的に人格化された税となる。したがって、税の適正な算定は、その納税者に押し付けた専断的な税額ではなく、また特定の階層の多数の納税者の平均所得でもなく、特定の納税者の実際の所得なのである。
 したがって、所得を専断的または平均的に算定するいかなる要素も、特定の納税者の正確な所得額を確定する根本的目的と本質的に背反するものである。事実大量の税務行政はその成功を期そうとすれば平均的算定方法を含むなんらかの要素に頼ることを必要とするかもしれない。しかし、これらの要素に依存することは批判的に検討されなければならない、そしてその使用にあたっては、それによって惹起される不公平より行政上の利益が明らかに大きく、また不公平があまり甚しくない場合においてのみ、使用を許されるのである。それ故、目標額、あるいわ割当の使用、同業組合の間で行われる税額の集団的割当、一同業組合内で、その分担額を各員に割当ることや、所得を算定するため余りに標準率に依存するような要素は、全て適正な税務行政が最初から嫌疑すべきものであり、またそれと根本的に背反するものである。また、明らかに、税務官吏の側のえこひいきあるいは、税の適用を緩和することはいかなる場合でも許されない。最も念頭に置くべきことは、ある特定の納税者の所得を公正に確定することである。

2 申告納税 (Self-Assessment)

 所得税、および法人税の執行面の成功は全く納税者の自発的協力にかかっている。納税者は、自分の課税されるべき事情、または自分の所得額を最もよく知っている。このある納税者の所得を算定するに必要な資料が自発的に提供されることを申告納税という。源泉徴収の行われない分野においてはかかる申告納税は満足な税務行政にとって極めて大切である営業者、農業者、高額給与所得者、法人 —すなわち申告書を提出しなければならない全ての納税者は、この申告納税によって自分等の所得を政府に報告している。このように報告している各人は、国家が当面している行政上の事務の一端を負担しているのである。
 もし税務行政が成功することを望むならば、このような納税者の大多数が自発的にその仕事の正当な分前を担当しなければならない。同時に、政府はその信頼を裏切り虚偽あるいは不正な申告をした納税者に対しては厳重に法律を適用することをこのような大多数のものに、保証しなければならない。

 源泉徴収を受ける所得に関しても、ある意味で申告納税と納税者が義務として協力する面がある。源泉徴収を受ける被用者は、かれの課税される事情、—たとえば扶養親族の数— をその雇用主に正確に通知しなければならない。。賃銀給与に対する税の徴収を委任されている雇用主は如何なる性質あるいは形体にせよその賃銀給与の全額に体して源泉徴収の税率を厳格に適用しなければならない。かれはこのようにして徴収した税金を、直ちに政府に支払わなければならない。それゆえ被用者と雇用主も適正な税務行政の仕事の一端を担っているのである。

3 目標額制度 (The Goal System)

 このような自発的な申告納税は納税者の正確な所得の確定を目指している。その根本原理は、いわゆる「目標額制度」と対照的なものである。この制度によると、徴税目標額が各税務署に割り当てられるか、あるいは各税務署がこれを算定する。この目標額の総計は予期される所得税徴収の予算額である。この目標額が絶えず税務署の前につきつけられている間は、各個人の正確な所得額は大体忘れられてしまう。この目標額は種々の団体組合に細分される。税務署は目標額に到達しようと努力し、しばしばこれを超過することがあるので、目標額に到達した後に税金を支払うものはそれほどひどくは取扱われない。このような目標額制度は所得税、法人税の徴収が完全に崩壊するのを防止するには当初は必要であったかもしれない。しかし、これをやめるのでなければ健全な税務行政の出現は望めない。
 この制度がなんと呼ばれても、またそれらの目標額が大蔵省から下達されたものであろうと税務署からその予期割当額が上申されたものであろうと、この見解は正しい。大蔵省が所得税、法人税から予想される歳入総額を推計することは必要であるが、各税務署が達成すべき目標としてこの税収を割り当てることは不必要である。同様に、目標額制度によらずして、各税務署の能率を確める適当な方策は講ずべきであろう。種々の要素を用いて、ある特定の税務署がその職務を適正に遂行しているかどうか確かめることができる。たとえば提出された申告書の数、必要とされる更正決定の度合、納税者の異議申立の数量、調査を実施した件数、その地域で実施されている記録保全の範囲等資格ある監督官は税務署の能率を測ることができなければならない。その仕事は決して容易ではないが成就し得るものである。従って、客観的な税額決定えの第一歩として目標額制度を廃止すべきである。

 このような背景のもとで、所得税、法人税の執行過程における一連の措置を引続いて考究しよう。個人所得税および法人所得税は一緒に考究することとしよう。

C 所得税および法人税の執行面における手続的措置 (Procedural Steps in the Administration of the Income Tax)

1 推定税額の申告 (Declaration of Estimated Tax)

a 前年の所得に基準をおいて行う申告

 所得税および法人税の申告納税における第一歩は当年度の推定所得ならびに税の申告を提出することである。その目的は納税者をして現行の公正な随時納税制度の基礎の上に置くことである。すなわち現行の制度において税の三分の一はそのような予定申告が提出される6月30日に支払われ、三分の一が10月31日に、そして1月31日に確定申告が提出される時、実際の所得を反映するように訂正されたその残余が支払われるのである。
しかし実際には、納税者はその申告において一般に実際の額より遙かに低く、自分の所得を推定する。その結果、年間の徴税額はこれら三分の一および三分の二の水準より遙かに低いものとなる。そして徴収は次の年の始めに更正決定の圧力のもとに、急激に増加する。かくして随時納税制は破綻をきたし徴税は全く不均衡となっている。

 この状態を是正するために、法律において申告は前年の所得に基くべきことを規定すべきである。納税者は、もし希望するなら、それ以上の額を申告してもよいが、少くとも前年の所得額を申告することが必要である。かくして計算された税の三分の一は申告の提出と同時に、他の三分の一は10月31日に納付されるであろう。法律はかくして申告された税額の徴収を実施するために、現在確定申告に基いて納付すべき税額について存すると同様な措置をとることを認めるべきである。同時に、そのように申告された額に対しては税務署は更正決定をしない。しかし、前年の所得をこのように用いることは、申告、および最初の二回分の支払いのための推定税額を決定する機械的な手段にすぎない。1月31日の確定申告が提出されるときは、前年の実際の所得が示され、それにしたがって確定税額を納付するのである。この確定申告は現在と同様更正決定の対象となり得る。ある場合には、納税者に対して払戻しということがあるであろう。

 国民経済における実質的変動を加味するために、法律は大蔵省に前年の所得に関する調整比率を定める全権を委任する規定を設けるべきである。
 かくして、もし所得が増加する時は、申告に記入されるべき額は前年の所得に例えば十%、あるいは大蔵省が指定するそれ以外の数字を用いてこれを増加することができるし、また逆に所得が低下する場合は減らすことができる。特殊な個人的事情を斟酌するためには、納税者が申告を提出する前に、同年の自分の所得が前年より著しく低下することを当年の初期の実情に鑑み、特に適当な帳簿または記録によって、充分証明できれば、税務署はその納税者の申請をまって、前年の所得より低い額を使用することを許可する権限を持つべきである。

 このような申告制度は(一)、徴税を平らかにしそれによって現在のように翌年の初めに起きる瘤を避けることができ、(二)、更正決定のためには確定申告を調査するだけで済むから税務官吏の仕事の重荷を軽減し、(三)、明確な税額が提示されるから納税者が納税のためにしている貯蓄額の適否をそれによって判定することができ、(四)、税務署に一月中の申告に対して更正決定をする時間をより多く与え(なぜならば、それまでに入った多額の徴収の結果、会計年度が終了する3月31日までに更正決定を済まさなければならないという時間の制約を受けないから)、(五)、前年の所得、当年の税に関する事情(扶養親族の数等)および税額を主として記入した簡単な申告様式を使用することを許すものである。あるいは申告書の提出をはぶくため前年の所得にもとずいて税務署で用意された、書付け[# bills 納付書?]を納税者に送付することもできるが、申告書の提出の規定を存置する方が望ましい。それによって扶養親族、税率の変更を当年のものに調整することができ、書付けを用意するため税務署にかかってくる負担をはぶくことになる。

b 法人

 法人に対しては前になされた勧告で税のため十二ヶ月間の事業年度を採用すべきことを提案している。それ故、法人は、現在このような十二ヶ月の期間を有する法人と同様に、六ヶ月の終に仮申告を、十二ヶ月の期間後確定申告書を提出すべきである。このような申告書は、所得税の場合にした前述の勧告と同様に、前年の所得に基いて行うことができる。

c 農業者

 農業所得に対する徴税方法の改正は後に提案する、それによると、農業者が申告書を税務署に提出する必要は多くの場合、はぶかれ、他の場合は申告期日が変更されることとなる。

d 源泉徴収を受ける賃金給与所得者

 賃金給与について源泉徴収を受ける納税者の場合に申告を提出する必要性については、簡素化が可能であるか否か(このことは同居親族その他の大巾の改正と結びついている)を見るために再検討されなければならない。

2 源泉徴収 (Withholding)

a 総論

 賃銀給与所得者の所得税の大部分は、雇用主が税を源泉徴収することによってなされる。その本質的見方においてはこのような源泉徴収制度は旨く機能しているかのように見える。被用者は自分の給与額および源泉で徴収されている税額が幾らかほぼ正確に知っているようである。雇用主も一団として源泉徴収に伴う義務を全般的に申し分のない程度に履行している。その結果、納税者の三大群 —営業者、農業者および雇用者— の中では最後の者が現行の税務行政において最も効果をあげている群である。

b 勧告する改正

 しかしながら、源泉徴収の過程における改善は可能である。よって以下のことを提案する。

(1) 被用者に対する報知

 法律は、雇用主に対して被用者に給与を支払うたびごとに、その徴収税額を書面で通知することを要求すべきである。これは、現在、年末に要求されている通知の外になされるべきである。雇用主は、源泉徴収表および、その他の源泉徴収に関する報知を被用者に対して一般に掲示をする場所に掲示すべきである。このような報知では源泉徴収の計算方法を説明すべきである。このような目的のために国税庁が説明書を用意することが望ましいであろう。労働組合はその組合員に源泉徴収の必要事項およびその税率を報知すべきである。

(2) あらゆる形式の賃銀給与に対する源泉徴収

 あらゆる形式の賃銀、給与が実際に源泉徴収されているかどうかを見るために調査すべきである。手当や、被用者に対する貸付に擬装した報酬、現物報酬、賞与等はすべて、源泉徴収の対象とならなければならない。

(3)雇用主の即時納付

 雇用主(並びに配当利子および印税に対し源泉徴収するその他のもの)が、政府に対して源泉徴収税額を速かに納付したかどうかを確かめるために調査すべきである。雇用主は賃銀給与の源泉徴収税額を政府に納付したことを示す毎月の領収書をその営業所に掲示しなければならない。

(4) 年末調整を最少限度に止めること。

 源泉徴収制度は、年末に必要となる調整額を最少限度に止めるように、注意深く検討して、改善すべきである。賃銀、給与の源泉徴収税率は源泉徴収税額が過少であるよりもやや過大になるようにすべきである。
源泉徴収が過少である場合には、それに伴う調整は苦痛を防止するために必要があれば、支払期日を数回に引き伸すべきである。

(5) 年末調整を税務署へ移管すること

 現在年末調整は雇用主が処理していて、大部分の被用者は税務署と全然接触がない。今のところ、税務署の重荷が大きいのでこの調整は雇用主が引続いて実施しなければならない。しかし、税務署にこの手続を移管することが可能となる限り可及的速やかに移管すべきである。これは申告書提出の必要事項を簡素化するであろう。課税を受ける各被用者は源泉徴収税額に関するその雇用主の証明を添付して申告書を提出し、支払うべき残余を納めるか、または払い過ぎた分を払戻してもらうことになろう。

(6) 源泉徴収税額を税務署に通知すること

 所得の支払に対して源泉徴収をする雇用主およびその他の者はその源泉徴収税額を税務署に通知しなければならないが税務署がこの通知と納税者の申告書とを突合わせることは特に被用者の管轄税務署と雇用主のそれとが異っているときは、困難である。このような源泉徴収機関に対しては、更に、所得の支払を受けるものが申告書を提出する税務署えも同様な通知を送付させることを考慮すべきである。このような規定は年支払額が一定額を超える場合に限ることができる、なぜなら、この手続は、主として、比較的多額の納税者から税を徴収するのに役立つものとして重要であるからである。

c 農業者の源泉徴収

 後の方で農業所得に適用される所得税手続の完全な改正を勧告している。新しい手続の一部は供出される作物に対する政府の支払に源泉徴収制度を創設することである。

3 所得税の申告および最終支払 (Returns and Final Payment of Income Tax)

 納税をする大衆は1月31日の確定申告書提出の機構については相当馴染んだように見受けられる。この点に関する仕事は、現在の状態を着々と改善することである。以下の提案はその為のものである。

a 申告書様式の簡素化

 現在の申告書様式は、普通の納税者にとっては複雑すぎる。このことは申告書についている注意書に対しても同様である。この複雑性の相当部分は、勿論、法律そのものの複雑性に起因している。所得税の構成を実質的に簡素化し、申告書様式と注意書とを相当簡素化できる根本的な大巾な改正を勧告した。その上、形式、用語、印刷、表示方法、配置等の見地から申告書と注意書との簡素化に注意を払うべきである。納税者および税務官吏が容易に見分けがつくように、異った種類の申告書は違った色で印刷するのがよいであろう。

 農業者の申告書様式も簡素化すべきである。現在、農業者は普通の申告用紙と農業所得を表示するそれと別個の用紙、または表とを処理しなければならない。これらの用紙は改正し、簡素化して、後に論ずる農業所得の徴収方法に応じて作られる農業者用の申告用紙に合併すべきである。また、漁業者、小営業者および被用者のごときその他の納税者群に対して別個の申告用紙を作る可能性について考慮すべきである。

b 申告書の提出に対する援助

 納税者がその申告書を提出するのを援助するためにあらゆる適当な機関が動員されなければならない。各税務署は申告時期には、納税者のためいつでも手助けができる数名の官吏を用意しておくべきである。
百貨店、学校、郵便局、および納税者が多数集まるようなその他の場所に税務官吏を派遣し納税者の手伝いをするのがよいであろう。労働組合、商工会議所および農業協同組合はその組合員、会員を引続き援助すべきである。田舎では村役場も利用されるであろう。

c 高額所得者の貸借対照表の提出

 税務署の調査を援助するために、高額所得の納税者はその確定申告と一緒に、貸借対照表を提出することを要する旨法律で規定すべきである。このような貸借対照表は、所得が、例えば五十万円を超え、または純資産が二百万円を超える全ての納税者に提出させるべきである。この貸借対照表には納税者の所有する全資産の一覧表とその評価およびその全負債を含まねばならない。また申告書に適用される刑事罰はかかる貸借対照表にもこれを適用すべきである。更に、資産の記入洩れまたは過少評価に対しては民事罰を適用すべきである。

d 申告書の秘密性

 現在、申告書は秘密に付せられていない。なぜなら小額の手数料を払えば誰でも他の納税者の申告書を調べることができるからである。この慣行は、通報者の手を借りて税務行政の執行を援助させようとしたものである。しかし、両者を比べれて見れば、申告書の記載事項を秘密にする方がより多くの全般的協力をもたらすように思われる。それ故、申告事項を秘密にする方が適当であろう。しかし、税務行政の執行の一助として比較的大所得を有する納税者の姓名、および所得を一般に知らせることは依然として望ましい、そうすればこのような所得について情報を持っている者が相当多額な過少申告には気がつくであろう。比較的大所得を有する納税者、例えば二十五万円を超える所得を有する者およびその純所得に関する一覧表を各税務署に掲示し、一般の閲覧に供すればこれを達成することができる。

e 納税——貯蓄計画

 政府は、納税者が納税に応ずるために貯蓄し得る種々の方法を奨励し且つ宣伝すべきである。郵便貯金と銀行預金はその例である。田舎では、特に貯蓄組合を認可するのがよいであろう。このような貯蓄組合は、「ボス支配」およびその類に乗ぜられることを防止する厳重な規制のもとに組織運営されなければならない。この組合の活動は、貯蓄のみに限られ、その資金は郵便局または銀行のごとき信用して預けることができる所に預金すべきであり、特定の組合員が資金の融通を受けるには組合の役員およびその組合員の連署がなければならないような連署式手続を発達させ、その組織は協同組合的形態をとり、その組合活動は全部公に発表されるべきである。

f 納税——銀行、郵便局との協同

 銀行、および郵便局に納税する現在の方法はこのような預り所と税務署との協同を改善するために再検討すべきである。かくして税務署へ迅速に納税の通知をすることによって、現在よくおきることであるが、既に支払われた税に対して税務署が納税者に督促状を出すようなことを、防止することができるであろう。

4 農業所得に適用されるべき課税手続 (Procedure Applicable to Farm Income)

 農業所得に対して適用される所得税の課税手続は現在ほとんど全部標準税率の使用に基いている。各税務署は、その所轄国税局と協同して、その管轄地域の各種農耕地の段[#尺貫法における田畑の面積単位=反に同じ。1反=約10アール]当り総収益および支出の標準率を決定する。ある特定の村における標準率は、その村の数家族を突合せ、作付け予定、生産割当および予想価格に関する資料を入手し、ある場合には支出に関して、農業協同組合と突合せ、一地域当りの実際生産額を調べて、その地域内の農地に平均する等の方法によって作られる。
これらの標準率は、農業者が予定申告書および確定申告書を提出する前にかれらに提供される。農業者は、つぎにその納税用紙にこの標準率を挿入するのである。

 かくして一段当りの平均所得から各個人の場合に生ずる上下の差違は大部分無視されている。このような標準率の使用によって、税務署は大量の農業所得に課税し、時には過大に課税することができた。その結果、農業者は団体としては、その所得が税によって把握されている程度において給与所得者についで第二位にある。一方は源泉徴収の結果として、他方は可成り正確な平均化によって、この二群の所得は、営業者の所得より遙かに有効に捕捉されている。

 標準率は平均額としては可成正確なものであろうが、しかしそれは平均額以上のものではあり得ず、従って各個の場合においては不当に公平を欠くかまたは不当に寛大であることを意味する。それ故純所得の客観的、個人的測定という目的に一致するためにはこの標準率制度は、各農業者の段当りの所得造出力の差異をできるだけ考慮に入れた方法によって置き代えるべきである。かヽる制度は、作物の各人の実際供出量および肥料その他の各人実際支出に関する入手可能な資料が相当あるから、完全に実現性のあるものである。このような資料に基く申告は、平均額の使用に極度に従属的な考慮しか与えないことによって、農業者に対する所得税の公平を著しく改善するであろう。また、もし農業者の所得税支払をかれの季節的な収入の変化に即応せしめたなら、農業所得に適用される所得税の課税手段はさらに改善されるであろう。

 このような調整によって、税金を支払うため借金する必要が減少し、農業者が実際に遅滞なく納税するようにできる。

 これらの二つの目的 — 純所得を各人ごとに測定することおよび納税を農業収入に適合せしめること — は次の計画によって容易に実現できる。

a 主食穀類および煙草の支払から税金を源泉徴収する。もし農業者の推定純所得の七十%を超えるものがこのような源泉徴収の対象となる穀物から得られる場合、かれは税務署に対し申告書を提出する必要がない。源泉徴収は、その穀物に対し農業者に支払う銀行または協同組合によってなされる。農業者は一年間を通じて一ヶ所からのみ支払を受けるように限定される。申告書を提出しなければならない農業者に対しては申告および支払期日は二毛作地域にあっては7月31日、11月30日および2月28日、単作地域にあっては、11月30日と2月28日に変更すべきである。

b 二毛作地域における夏期収穫物の供出に対しては、供出総支払額の一律のパーセントで税金が源泉徴収される。基礎控除や扶養控除によって前年の所得税を全然あるいは殆んど支払わなかった低額所得の農業者に対しては、税務署から右の通りであるということを証明した書面を源泉徴収機関に提出し、それによって夏期収穫物の源泉徴収を免除してもらえるようにするのがよいであろう。

c 十月に農業者から、源泉徴収機関に対して、自家消費の推計額及びその農業者に対する供出割当(もし調整された割当が定っていなければ事前割当を用いる。)に基いて見積られた総所得から各税務署によって決定された経費の基準パーセントを差し引いたものを示した申告書が提出されるであろう。
統制外の作物、その他の所得を有するの農業者の場合でも、できる限り実際の生産資料が用いられるであろう。源泉徴収の書類には、農業者の基礎控除および扶養控除と夏季収穫物に対する源泉徴収額を記入すべきであろう。実際大部分の資料は、協同組合あるいは村役場の者が記入することになるであろう。このような書類に基いて源泉徴収機関は、この農業者の源泉徴収率を計算するであろう。支払われる税額および供出される俵数に基いて一俵ごとの控除が記入された表によってその税率を決定する。便宜上、その率に幾つかの階層を設けて、その農業者をその申告に基いて特定の階層に割り当てる。この源泉徴収率をこんど農業者が実際供出した各俵ご[# に?]対して適用する。

 b項およびc項の代りに、税務署は、前年の申告に基いて源泉徴収率を計算し、その率を農業者および源泉徴収機関に通知することもできる。この方法によれば、源泉徴収機関に、十月の申告書を提出する必要がなくなり、夏季収穫物の源泉徴収の各人の税率を出すことができるであろう。しかしその方法は税務署の仕事を非常に多くし源泉徴収の全般的な正確度と信用性を失うであろう。

d 記録のつけ方に習熟せしめるため、各農業者に次のような実例的な資料を含む、納税手帳を与えることもできるだろう。すなわち、源泉徴収額、穀物別の供出割当の数量および価額、供出および支払の記録、納税の記録、認められた経費額等である。このような資料は適当な地方の資料出所から容易に入手できるであろう。

e 供出が完了した後の二月末日に確定申告書が提出される。この確定申告にあっては、総収入は村役場が農業者に提供する実際生産資料に基いて計算されたものである。自家消費所得は、供出割当制度で許されている保有量に基いている。このような保有量の所得額は、その収穫期当時の生産者価格によって計算される。支出の計算はできる限り、村役場および協同組合に保存されている各人の肥料農具に対する経費の記録および領収書によって証明された他の経費の記録に基いてなされるべきである。要すれば、税務署、村役場および協同組合によって各村のために協同で編纂された経費標準を用いてもよい。統制外の穀物からの所得、家畜その他の所得はできるだけ実際の資料に基いて計算されるべきである。しかし、必要な場合には標準を利用してもよい。源泉徴収額は、源泉徴収機関から入手すればよい。このような手続は、闇所得を捕捉することはできないから、税務署は、このような闇所得に課税をするとすれば、別個な処置を採らなければならないであろう。割当額が全体的に余りに低い地域においては、農村当局と協同して案出した若干の一般的なパーセントの調整が役立つであろう。超過供出を保護するため闇所得を捕捉する努力が必要であるかも知れないが、食料事情が改善するにつれて、この問題は漸次なくなってしまうように思われる。

 この納税申告は村役場および協同組合から得たこれに関連した資料並びに納税者の扶養者数と家庭事情について適当な村役場の吏員によって証明されるであろう。農業者の申告書の様式はこの計画に従って改正されるであろう。

 農業者は、それと同時に、申告書によって決定された実際の税額より源泉徴収された税額の方が低ければ、未納の分を支払わなければならない。もし源泉で過大に徴収されていた場合には、申告書の払戻の請求となり税務署はこれを速かに支払うか、もし納税者が望むなら、爾後の税額に充当させるべきである。

 右の制度は次の、ことを達成するであろう。

a 農業者の純所得を割合正確且個別的に測定できる。いずれにせよ、標準に完全に依存している現行の平均額よりかは遙かに正確である。

b 所得を入手した時期と納税時期とが適合する。

c 政府の供出・支払と農業者の税額支払とから生ずるずれをなくすことによって通貨発行の季節的変動を縮少する。

d 秋の収穫支払期間に農業者が過度の支出をするのを防止する傾向がある。

e 予定申告を前年の所得に基いて行う制度では、7月に最初の三分の一が支払われるべきものであるが、これを撤廃し、供出に対する支払があるまで納税を延期せしめる。

f 大部分の農業者の申告を不必要にし、地方吏員に申告書の資料を保証させることによって、税務署の事務負担を相当軽減する

 この制度の詳細は、関係各団体、たとえば大蔵省、農林省、市町村吏員、協同組合等が協同して立案すべきである。その適用は、農業所得に影響をおよぼすから、所得税行政の公平および能率上実に重大である。従って、これが実施に当ってはすべての関係団体がそれを成功させるよう全力を傾倒しなければならない。

5 申告の更正決定 (Re-Assessment of Returns)

a 調査

 納税者が一旦申告書を提出すれば、申告納税の自発的に行われる仕事は終了し、税務署の仕事が始まる。納税者が申告納税の責任を正しく履行する限り、税務署の負担は軽減される。いかなる所得税においても経験することであるが、納税者の協力が落ちるのを防止する必要上申告書の照合調査に絶えず目を配っていなければならない。申告書の敏速且つ効果的な調査は、違反に対する罰則の適用によってそれが裏付けられていれば、納税者の高度の申告納税をもたらすであろう。それ故、正当な所得税の税務行政には広範な調査計画が絶対必要である。しかし、その調査の目的なり結果は、正しい税金の客観的査定といった方向へ間違なく持て行かなければならない。正直な納税者には、不正直な者がその不正直によって利益することができないという保証が与えられなければならない。調査官が遅かれ早かれ脱税者を見つけ出し、かれが自分の税金の全部と非行に対する罰を必ず受けるということが正直な納税者のために保証されなければならない。

 かように、調査制度の基礎工事は、国税庁の査察部の編成によってでき上がりつつある。この査察部の監督下に、国税局段階で査察官を設け、高額納税者の事件を取扱うことになっている。このような基本計画は絶えず促進され、その綱領は常に改善、拡張されなければならない。国税局が調査するばかりでなく、地方の税務署段階まで拡張されなければならない。特に、次の事項に注意を払うべきである。

 (1) 調査すべき事件の選定

 すべての申告書を調査することはできないということは明瞭である。したがって、調査官の効果的利用が最も必要である。法人および個人の納税者で最高額の所得を有する者を調査するために、適任者を指定するのがその一つの目的である。もし、より裕福な連中が彼らの分前を支払っているということが保証されれば、平均的な納税者の協力は促進されるであろう。それ故、ある一定額を超える所得の申告は、すべて調査されなければならない。これと同時に、調査される事件の少いが充分と見られる部分を、各階層の納税者に適用できるような手当り次第の標本方式によって選定すべきである。このような選定は全く手当り次第に、そして、ある特定事件を調査する必要があるという疑念にとらわれずに、行うべきである。従って、いかなる納税者も、たとえかれの所得がいかに少額であろうと、また表面上その申告がいかに尤ともらしく見えようと、自分の申告書が調査されないだろうという気持を抱かないようにするべきである。このような手当り次第な調査の結果の分析はどのような型の申告書がより多く調査するために選ばれるべきかを決定する傾向を示す。それに加えて、後に述べるが、調査される事件の選定の手助となる標準を使用しても差し支えない。この全調査機構が発達するにつれて、毎年とはいわないが、少くとも納税者の側の誤謬を究極には探知されるということが十分表示される程度に税務官吏はできるだけ多くの納税者を訪れるよう努力しなければならない。

 (2) 人事

 調査の仕事には、その適任者を必要な数だけ指定しなければならない。これらの人々は調査の方法および技術に細心な訓練を受けた者でなければならない。かれらが活動するための手助となる必携手帳が用意されなければならない。これらの人達は、正当な利用しなければならない。たとえば、一特定の事件には特別の性質のものでない限り一人ないし二人だけ指定すべきである。

 (3) あらゆる情報の利用

 調査官はありとあらゆる情報の出所を利用しなければならない。かれらは、新技能を発達せしめるのに敏感であり、想像力に富む者でなくてはならない。その仕事は古い書物を無益にも探求することで終るのではない。情報は商取引のお客側と供給者側とから得てこなければならない。銀行預金を照査しなければならない。税務署の銀行記録検査に関する規定はより広範に調査し得るように改正すべきである。証券取引委員会およびその他の公共団体に提出された資料を取り調べるべきである。不動産の個人的取引、多額の保険またはその他の資産の買入などは、彼の申告した所得とかかる支出とが一致しているかどうかを見るために照査すべきである。申告した所得の照査の手段として純資産の調査を使用することを発達させるべきである。

 (4) あらゆる税活動の調査

 調査官は納税者のあらゆる税活動を照査すべきである。雇用主なら、源泉徴収の義務を正しく履行しているかどうか。納税者が必要な報告に回答しているかどうか。他の税を支払っているか。

 (5) 教育活動

 調査官は納税者にその帳簿や記録および経理手続の欠点を指摘し且つ必要な改善方法を説明してやらなければならない。

 (6) 脱税事件

 最近において、あり得べき脱税事件に対して特別の査察官の一団が専らこれを担当するような手続が採られた。この措置は適当であり且つ促進せしめるべきである。このような詐欺事件の調査、訴追は、犯人を実際に捕らえるとともに今後の脱税を阻止するために、極めて重要である。

 (7) 調査を援助するための大巾な改正

(a) 税務官吏の徴する宣誓書

税務官吏は所得税の調査に関連して人々を調査し記録を査察することはできるが、宣誓書を徴する権限はもっていない。その権限は裁判所がこれを保留している。税の調査を促進するために、権限ある税務官吏および検察官は宣誓をなさしめる権限を有すべきであり、その宣誓については適当な刑罰を付すべきであろう。

(b) 銀行預金

現在、銀行預金の多くは偽名、または、他人名義で行われている。このような手段は効果的な税の調査を明らかに妨害するものである。かゝる手段にはなんら正当な理由はない。しがたって、銀行は、もし、預金勘定がそれを用する便宜を有する個人の本名でなされていないことを知っているかまたはそのような疑念を抱く理由がある場合には、その預金勘定を預かることを認められないようにすることを勧告する。このような規定は、適当な罰則によって実行可能となるが、調査官が銀行の記録を直ちに査察することを認める改正と相俟って所得税の納税協力を著しく増大せしめるであろう。銀行預金の量は一時的にはこれによって影響を受けるかも知れないが、かゝる結果はこの規定によって得られる利益に比してより大きくはない。

(c) 法人証券の登録

現在は、株式または社債の有効な登録制度は存しない。よって、権利および債務証書を含む全ての法人証券に登録制度を適用し、それによって税務官吏が特定の株式または公債の持主は誰であるかまたは誰であったかを確かめることができるようにすることを勧告する。

(d) 営業の変更に関する通知

営業に従事する個人または法人に対しては、営業の開始、営業場所の変更および営業活動の廃止といったような事項を、適当な税務署に通知することを規定すべきである。

b 標準率

 (1) 標準率の使用

(a) 一般に、ある特定の納税者を実地調査することはその実際の所得を照査し得る唯一の方法である。このような調査を欠く限り、税の正確な更正決定をすることはできない。従って理想的には、個人の調査はあらゆる場合において更正決定に先行すべきである。しかし、申告納税に対する納税者の協力の低い現状においてはこの理想を実施することは不可能である。現在申告書の大多数は更正決定を必要とするという事実は認めなければならない。しかもかかる広汎な調査を許すだけの施設がないのである。調査した事件と更正決定を要する未調査の事件との間の溝を橋渡しするためには標準率制度に頼ることが依然として必要である。
 この標準率は二つの一般的形式をとる— 一つは種々の外形的要素(事業の大きさ、場所、被用者数、使用する資材等)に基いて問題の企業の純所得予想額を示す標準率であり、他は企業の利益率を示す標準率(やはり外形的要素に基く)で一度総収入額が分かれば純所得が得られものである。本質的には、かかる標準率は問題の団体の経験に基く平均額である。利用された分類の数と各分類の標準率の基礎となった資料の範囲に関してのみ洗練する余地がある。

 かかる標準率は二つの主要な機能をもっている。

 1 調査の指針となる。

 調査に耐え得る多数の申告があったが、この数の一部しか調査する施設がないとすれば、問題はどの申告を調査すべきかを確定することである。標準率から最もかけ離れている申告書を最も調査を必要とする申告書として区別するのに役立つよう標準率を正しく利用すべきである。下記で論じている標準率のかかる利用は帳簿や記録をつけることを奨励することを勧告した計画に対する必要な糸となるであろう。なぜならかような計画の本質は、指定された方式で帳簿をつけることを承諾した納税者には調査が常に、更正決定に先行することを保証されているからである。

 2 更正決定を確定する

 標準率は、また、更生決定すべき税額を確定するために直接利用できる。この方法では、所得税は納税者の実際の所得に対する税ではなく、その納税者が分類されている団体の平均所得に対する税となる。納税者はその申告を期待されている標準所得を通知されるであろう。かくして申告納税はその実体を喪失する。現在、申告と更生決定の大多数はかかる標準率の使用によって決定されている。

 この標準率の第二の使用法は理想的な意味では健全な所得税法と両立し得るものではない。なぜならかかる税は第一に個人の実際の所得に課せられるべきで、団体の平均所得に課せられるべきではないからである。同時に申告納税のもとで納税者の協力の水準が高まり、更生決定を要する事件を十分に処理できるだけの実地調査を施設が間に合う段階までに到達するには、相当期間の着実な発達を必要とするであろう。それまでは税務行政は自己防衛の手段として更生決定を行うためには標準率に頼らねばならない。
目標は直接決定のために標準率を使用することから、実際の調査の方向への指針として役立つものとしてのみ標準率を利用する方向に、絶えず持って行かなければならない。この転換の速度は適正な所得税の執行が実現されているか否かの度合を示す真の尺度となるであろう。

(b) 標準率の作成

 標準率は正当には調査の手助けとして、また弁解的には税務行政および納税協力がもっと高い水準に到達するまでの収入確保の手段として、税務行政の重要な一部となるだろうから、標準率を注意深く作成すべきことは至上命令である。標準率の基礎として利用する事件の数は増加しなければならない。主として、更生決定のために実施された実地調査により得た資料はこの目的のため二次的に使用すべきであろう。農林省の如き政府内で利用し得る情報源と定期的に協議すべきである。町村および農業協同組合のもっている資料は農業所得に関して照査すべきである。異った税務署によって設定された標準率の相異が地方の事情の相異によって必要な程度に限定されているかどうか、国税局次いで国税庁は注意深く監督する必要がある。それに使用される分類は、特に職業および事業における組織的変化の主要な原因が認められるよう、充分に精密でなければならない。

(c) その他の事項

 更生決定の手続はその他の方法においても改善することができる。

 1 更生決定のための時間を増加すること。

 予定申告の手続に関し、勧告した改正によれば、1月31日までには、少くとも前年における税額と同額の(もし調整割合が規定されたらそれ以上の)税が徴収されているであろう。
その結果祖税収入の徴収は安定するであろう。今、行われているように、会計年度が3月31日に締切となる前に必要な才入を獲得せんがために、一ヶ月以内で更生決定を全部終了することは、最早不必要であろう。かくして、更生決定を秩序正しく、注意深く実施し得るようにそれに十分な時間をかけることができる。これは速度が緩慢になるという意味ではない。なぜなら毎年新たに更生決定されるべき申告がどうしてもでてくるからである。しかし、その速度は現在一般に行われているものよりも合理的にすべきである。

 2 納税者に更生決定の理由を通知すること。

 納税者には更生決定の理由についてできるだけ詳しく通知すべきである。その措置が実地調査に基ずいてなされる場合には、税務署はその理由および新税額の算定についてこれを十分に説明できる立場にある。更生決定が標準率に基ずいてなされる場合、その通知は必然的に制約を受ける。しかし何れの場合においても、納税者は何故に更生決定をされたか、また追加税額はいかにして算出されたかを知る権利を有する。

6 更生決定額に対する納税者の異義申立 (Taxpayer Protest of Reassessed Amount)

a 異議申立の性質と納税

行政過程における次の段階は更正決定に対する納税者の意義申立権とその異議申立を取り上げる方法である。納税者のすべてが、かように異議申立するとは限らないが、今後は相当数にのぼる異議申立の提出が予想される。通常は、このような異議申立は最初、税務署で取り上げるべきである。しかし、もし、その所得額の大きさに鑑み、その調査を国税局の調査官が取扱った場合には、異議申立はやはりその同じ段階で考慮されなければならない。異議申立は書面で、項目別の理由を添付してすべきである。
 その異議申立の提出期間は現在の三十日を四十五日に延長するのがよい。あるいはもう一つの方法として、正当な理由が示された場合税務署がこれを延期することができるようにすべきである。

 現在では、納税者はたとえ異議申立をしても、更正決定された税金を支払う必要がある。確かに、このような手続は困難な要素を含んでいる、特に更正決定が後になって不当であることが分った場合そうである。しかし、少くとも現在においては、かような支払規定は才人確保のため必要な保護手段である。税務署は真に支払が困難であることが証明される場合にはその支払の全部または一部を抛棄する裁量権限を引続き行使すべきである。

 しかし、将来には、納税者は審査機関の不当または専断的処置からもっとよく保護されるべきである。情勢がもつと安定すれば、利子負担およびこれに伴うその他の費用が不真面目な提訴を十分に防止するはずである。そうなれば、納税しなくても提訴を認めるように考慮すべきである。そうなれば、税金を払う代りに公債を受けとるような手続の可能性について考慮すべきである。

b 異議申立の取扱 — 協議団

 税務行政のこの段階に関する基本的問題は、このような異議申立あるいは提訴に対する処置の手続である。もし事件が以前に調査されているものなら、納税者は協定に到達せんがために調査官と全ての事項について討議できるはずである。このような協定は、もしそれが更正決定額より相当異ったものであるときは、監督官の認可を受けるべきである。更正決定の前に調査が行われなかった場合には、もし事情が必要とするなら調査を行い、前述の手続を踏むべきである。
異議申立は、特に問題の額が余り大きくない場合には、できるだけ敏速にそして非公式に処理するため、あらゆる努力が傾注されるべきである。

 もし調査官とのこのような討議が事件を解決するに至らなければ、更に行政的考慮による手段に訴える必要がある。未解決の異議申立事件を考慮し且つ決定する機能を持つ税務官吏よりなる協議団を作ることを提案する。協議団は税務官吏の中で、比較的に有能で年長の、経験の豊富な者から選出されるであろう。現在の人手不足に鑑み、調査官を臨時に協議官に指定することも可能であろう。以前に調査または最初の協定の段階で特定の事件を直接取扱った調査官は同一事件の協議官とすべきではない。しかし、可能である限り、協議団はできるだけ調査官以外のものによって構成されるべきで、それによって納税者に対し、かれらの提訴は最初の更正決定または調査の過程と関係のない全然異った税務官吏の団体によって考慮されているということが保証されなければならない。

 納税者は自分の事件を一名またはそれ以上の協議官に提出し、各事項を十分に検討考慮して、協議官は問題となっている点について決定を行う。この協議団を各税務署に置くべきか、または県内の各税務署へ出張する県単位の協議団を置いた方がいいかを決定するために実験を行うべきである。前者は税務署の包括的統一的処理という点によりよく合致しているが、後者は納税者に対してより偏見がないという感じを与えるかも知れない。

 もし税務署の協議団の決定に対して納税者がなお不満であるなら、ある場合には更にこれを国税局へ提訴する権利をもつことがよい。
 ここにおいても、ほぼ同じような方式でこの協議団の機構が利用されるであろう。国税局の協議団は国税局で事件を検討してもよく、またはその事件を聴取するために税務署に出張してもよい。いずれの場合でも、納税者は自分の事件を持出すために協議官の面前に現われる機会を与えられる。その事件が前に国税局の段階で調査された関係上、その異議申立が国税局で最初に取扱われる場合においても、この手続が同様にとられるであろう。

 ある場合には、国税局へ更に提訴することを認めずに税務署の決定を最終的なものと規定するのが望ましいかもしれない。そうすれば、帳簿および記録を付けていない納税者は国税局へ提訴できないことになろう。また、一定額以下の所得に関する事件も税務署だけに制限することができよう。もし事情が例外的であると思われる場合には、税務署長または恐らくは国税局長にも、提訴を認める裁量権を与えるべきである。

 現在、納税者は大蔵大臣に訴願する権利を有するから、国税局から更に行政的に提訴する方法が存在している。特にもしそれが頻繁に使用される場合には、このような提訴の道を閉塞することを考慮すべきである。そうでなければ、その行政過程が不当に延長され、国税庁は審議し決定しなければならない多数の事件に当面するであろう。国税局の協議団の活動は、国税庁がかかる協議団によって決定された事件を監査することにより、これを監督統御することができる。またこのような監査手続は各国税局における方針の統一を保持することができよう。また、国税局はその段階で制定をつける前に特殊な事件について国税庁に助言を求めることができる。

c 異議申立の取扱 — 市民委員会

 この協議団に代る一つの手続として市民委員会を利用すべきことが提案された。種々の提案中にこのような委員会がいかに選定され、且ついかに機能するかの点において相当差異がある。

 しかし、正規の訓練を受けた、本職の税務官吏によって構成される協議団の方が、内職的市民委員会を基礎とするいかなる可能な方式よりも、納税者の異議申立を判定するためによりよい方法であることは明瞭である。税法は専門的である。それ故、専門的な資格のある官吏の方が訓練されていない民間人よりもこのような税法に準拠してより多くの結果をもたらすであろう。市民委員会のもとでは正しい税務行政の責任が分散され、税務官吏と市民委員会は、非能率的な行政に対する責任を互になすり合う。税務官吏は委員会の方に決定の責任を負わせたがるようになる。後者は次に税法より他の要求に基ずいて事件を判定しようとする。このようなやり方は客観的課税を阻害する傾向がある。これらの批判は少くとも委員会が正直に機能することを前提としている。しかし、多くの場合、いやおそらく大多数の場合、委員会は一定の納税者に対しえこひいきするか、または「ボス」支配に陥いるか、あるいはある要素によって操縦されることが予想される。

 確かに、長期にわたる提案としては、このような委員会は税務機構における望ましい部分とは思えないであろう。かかる委員会は、もしできるとすれば、ここ数年間は税務行政が余りにも弱体で不適当のままであろうから、納税者は無経験で専断的な税務官吏に対する一つの緩衝装置を持っているべきだという理由で弁護される間に合せ的措置としてのみ、支持できる。かかる間に合せは政治的便宜の考慮に染っている。なぜなら、委員会は税務署への批判をそらせる手段であるからだ。
これを正当化することは税務行政の改善に対する敗北主義者的な態度を前提にしているが、これはこのような改善の方向へ全力が注がれている際全く不適当である。その上、このような委員会ができたならば、税務行政の直接的改善のためにはるかによく利用され得る精力が、必然的に委員会を育成監督するために費消されてしまう。このような委員会に依存することは、協議団制の発達を、それがかりにこのような状態の下で多少でも発展できるにしても、遅らせるであろう。それによってこの間に合せ的委員会は恒久的な手段ともなりかねないのである。

 それ故、市民委員会を現在の税務行政の過程に導入することは明らかに不適当である。その代りに、納税者の信頼を得るような有能な協議団を作る方向へあらゆる努力を集中すべきである。

7 訴訟 (Litigation)

a 概説

 納税者と税務官吏との間の紛争のすべては行政的手段では解決しない。ある事件は解決される前に裁判所へ持ち出す必要があるということが予想される。しかし紛争の大部分は行政段階で解決されねばならない。裁判所は、行政的手段で解決に達しない事件において、税務官吏と納税者との間の公平な仲裁人たることを保証する安全弁として存在するに過ぎない。

 過去においては、司法手続は殆んど全然税の訴訟についてとられたことがなかった。しかし既に、脱税の訴追および納税者の訴訟提起によって、租税事件の数および重要性は増大し始めている。その結果、訴訟に関する規則および裁判所において事件を取扱う方法は、裁判所に訴える事件が増大するにつれ、再検討を必要とするであろう。

b 払戻訴訟

 税の払戻のため納税者が起す訴訟に関する規定は明確にすべきである。納税者は、もし税務署または国税局のいずれかが不利な決定をした場合、その決定後訴訟を起すことを許されるべきである。

 行政上の決定の引延しまたは遅滞を防止するため納税者はもし正当な行政措置をとり得る一定期間内にかれの異議申立について決定がなされなければ、かれの権利として訴訟を起すことを許さるべきである。納税者は、原則として、行政過程において異議申立をすることによって救済をはかることを試みない限り、裁判所に事件を持込むことは許さるべきではない。しかし、もし行政上の過程が正しく機能しなかったために容易ならぬ苦痛を生じた場合には、裁判所に請願する権利を与えられるべきである。払戻訴訟の場合、政府はその訴訟過程において明らかとなった事実に基ずく追徴税額による請求権と訴訟とを相殺することができるようにすべきである。

 このよな訴訟ならびに詐欺または刑事犯の行為を含んでいるもの以外の租税の徴収に関する訴訟においては、納税者は政府の行政上の決定が誤っていることを示す証拠を先ず最初に持って来る責任を負うべきである。

 納税者の提起する租税事件数が増加するにつれて、政府はこのような事件における政府の代表者の取扱い方について考慮しなければならない。現在は、租税に関する訴追は特別の租税検察官が行うが、納税者の提起する訴訟の弁護は法務府によって主管され、通常は税務官吏が協働しているが、その究極の指導は法務府に委ねられている。
現在の百五十件にのぼる政府に対する訴訟の額は、政府の弁護の取扱いに関する最良の計画を今確定的に決定するためには件数が少な過ぎる。

一つの可能な計画は、各国税局に法務府の全般的統制の下に訴訟係を作ることであるように見える。このように国税局が民事租税訴訟を取扱うことによって、国税庁は一元的統制を行い、それによって徴税の行政および訴訟の段階が綜合され得るであろう。もう一つの可能性は法務府で設置を予定されている地方分権的な地方支部の一部として同府内に租税部を発達させることであろう。このような租税部は税務官吏と緊密に協力して活動すべきであろう。事件の分量が増加し、税務官吏および法務府が共に事務処理の経験を積むにつれて、その他の方法もでてくるであろう。いかなる時機においても、またいかなる制度が採用されようとも、この両者の緊密な協力が緊要であることは疑がない。特殊な事件を処理するために弁護士を雇うような制度に頼ることは、おそらく特に臨時的な便法として用いられるのでない限り、適当でないように見える。

 民事の租税訴訟において政府の利益を代表することは行政措置より生ずる訴訟をいかに措置すべきかという一般問題の一部をなすものである。この広範な問題に対して相当考慮が払われているようである。この全般的分野における進歩と応じて、法務府および税務官吏は、租税訴訟の重要性が増大している今日、可及的速やかに政府の利益を保護する実際的方策を発達せしめるように緊密に協同して仕事を開始しなければならない。

c 租税に関する訴追

 最近、脱税事件の捜査および訴追に関する手続が設定された。この手続は次の方法を含んでいる。(一)国税局の査察官による事件の周到な準備と審査、(二)訴追すべき事件を選定するに当って租税検察官と査察官が相互に協力すること、(三)このようにして選定された事件を訴追するに当って検察官が勤勉にその事務を執行すること。その目標は脱税に対する方向の正しい、強力な攻撃である。

 前記の手続に応じてこのような攻撃を強力に推進することが肝要である。脱税者の訴追および処罰を励行するとともにその結果を十分に公表することはより多くの納税者の協力を確保するために大いに役立であろう。このような仕事は査察官および検察官が共に相当訓練されることを必要とする。特別の租税検察官は非常に重大な使命を委任された。かれらはその仕事を処理するにあたってはそれが一時的なものでなくかれらの任務の中で恒久的且つ重要な局面であるという認識に基ずいてなさなければならない。その適正な施行は税法の規定に全く習熟することを要するとともに、事件の取扱いにあたって工夫と想像力を活用しなければならない。

 判事はその手続が脱税に対する攻撃を準備するのに十分に効果的であるかどうかを確かめるために、その手続を再検討しなければならない。それ故、裁判を、何週間、何ヵ月もかかる断続的な聴取に代えて、継続的に行うように考慮が払われなければならない。判事は有罪の確信を且つ罪科が厳重であることを要する場合は、懲役および罰金ともに、厳罰に処することを躊躇してはならない。これとその他の問題は勿論一般的な司法手続および行政過程に対する司法手続の関係に関する改善について現在行われている研究と密接な関係をもっている。

詐欺事件に対する民事罰則についての勧告はこの後で論ずることとしよう。このような罰則は全ての詐欺事件を刑事犯として訴追する必要をなくし、かくしてそのような訴追を特に酷い犯罪者に対してだけ存置させることを得しめるであろう。

d 租税事件に対する専門的な裁判所の審議

 租税訴訟が数量および重要性を増大するにつれて、租税事件を審議する専門的な裁判所を発達させることが必要となるであろう。租税紛争の複雑性と税法の適用を全国的に統一することの必要性とのため、普通の司法手続は租税訴訟を処理するためには不適当なものとなってしまった。租税問題は高度に専門化している。普通の判事は、かれが不馴れな問題、法律および規則の研究に多大の時間を費した後始めて租税事件に対して公正な判断を下すことを保証し得るのである。徴税の確実性と税負担の画一性とを維持するためには、迅速な中央集権的な訴訟機構が必要である。完全に専門的な裁判所の審議は今直ちに必要ではないであろうが、予期されている租税訴訟の増大が適正に処理できるように今から計画を樹てるべきである。

 もう一つの方法は、東京高等裁判所の租税部門に民事租税事件に対する専属管轄権を創設することである。その租税部員が期日を予定して全国の指定された地域へ巡回旅行することによって、この機構を有効に活動させることができる。このような巡回組織は現行の断続的裁判手続の改正を必要とする。移送命令による最高裁判所への上告はこれを認めるべきであろう。かように制限された上告はこの計画の好ましからざる特色である。他の一方法は特定の管轄区域内の全ての民事租税事件を取扱う租税部を各高等裁判所に創設し、移送命令によって最高裁判所へ上告を認めることである。
 後者の方法は、東京の高等裁判所[# 東京高等裁判所]に租税事件を集中する他の方法よりも、決定の画一性、したがって税法の適用の画一性を欠く結果となるであろう。再審に関しても同様な欠点がある。両方とも民事租税事件の審議機関から地方裁判所を除外してしまう。もし各地方裁判所の段階で専門化が完全に得られるとすれば、経費が余りにかかり過ぎる。実際には他の仕事の圧力によって、それはしばしばたんに名目上の専門化になりがちである。他方において高等裁判所の専門化された租税部に上訴する制度を伴う地方裁判所の専門化されていない管轄権を継続することは、熟練した資格のある税務当局者によって第一審を行うという要請に応ずることができない。

 もっとも有望と思われる計画は民事租税事件を独自に管轄する新しい下級裁判所を創設することである。民事租税裁判所と呼ばれるこの裁判所は三人の判事の 審によって構成される。かかる裁判所を各高等裁判所の地域に設置し、高等裁判所と同様な地域的管轄権を付与する。その裁判所は自分の管轄区域内の各地を巡回し、このような民事租税裁判所からの控訴は東京高等裁判所の租税部へもって行く。それによって迅速な上訴を許し地理的画一性を維持することができる。この東京高等裁判所の租税部は各民事租税裁判所の手続および規則を統合する責任を有する。もし適当と考えられるなら、民事租税裁判所からの控訴に対する東京高等裁判所の再審の範囲は公正取引委員会からの控訴に適用されるもの、すなわち、事実に関する争点は事実認定に重大な誤謬があったという証拠が提出されて始めて審議されるという方式と同様な方式に限定してもよい。認められた手続でさらに上訴する場合は最高裁判所へ上告することになる。

 租税事件における司法上の専門化の問題の検討は今直ぐ始めなければならない。このような考究は行政措置の司法上の再審および一般司法手続の全分野にわたる発展と理念によって必然的に影響されるであろう。しかし、このような全般的計画において租税訴訟に特有な必要というものは明確に念頭におかなければならない。租税事件の正当な司法上の処置は他の方面での未発達によって妨げられてはならない。それ故現在過半数の租税訴訟が起きている大都市の地方裁判所段階で直ちに租税部を創設することが望ましいようである。このように、専門的な地方裁判所を考慮すべき程度にまで租税訴訟が広まっている地域における専門的地方裁判所に関する考究は民事租税裁判所または他の専門的租税部が将来創設された場合その根幹となるべき税法に技術的に訓練された判事達を養成することになるであろう。また租税訴訟にもっとも適した手続と技術を発達するための実験ができるであろう。

8 罰則 (Penalties)

 行政組織が変化するにつれて、所得税および法人税違反に適用される罰則の機構も再検討を必要とするようになる。現在の発展段階に徴して、勧告してもよいと思われる各個の改善は次ぎのようなものである。

a 納税申告を怠った場合

 現在、納税申告書が提出されなくとも、罰則を受けることはないようである。法律は、故意に申告の提出を怠った場合、それが刑事犯であることを明記するよう改正されなければならない。それに加えて、民事罰も規定すべきである。申告の遅延が一ヵ月を超えなければ、その税の十%が民事罰として加算されるべきである。毎月加わるごとにもう十%加算し、遅滞が続く期間その総額が税額の三十%になるまで加算することを示唆する。
もしその申告の遅延が故意の怠慢ではなく、正当な理由に基く場合には、このような罰則は適用されるべきではない。かゝる民事罰は、事実上税の一部となるから、徴収と同様な方法で取り立てるべきである。現在、納税するだけの資金を手元にもっていない者は、期限内に申告することによってなんら得るところはない。このような罰則は、かかる誘引手段となり、少くとも税務署がその申告によって、たとえ、すぐに支払を受けなくとも、納税者の記録をつくることができる。

b 納税を怠った場合

 期限内に納税しなかった場合、二十五%を課する現行の罰則は余りに苛酷である。もし、納税者が期限内に納税できなければ、たとえその遅延が軽微であっても二十五%が課せられるから、ある意味で、かれは滞納を続行するようしむけられている。罰金額は、従って滞納期間に応じて伸縮させるべきである。

 この罰金総額の上に、納付するまで一日当り一%の十分の一の利子すなわち約年三十六%の利子を支払わなければならない。督促後は、前記の利子と二十五%の罰金額に加えて、一日当り一%の十分の二すなわち約年七十三%の利子が課せられる。このような利子率は明かに多過ぎるのであって、それは滞納問題を悪化するのに役立つだけである。

現行の制度に代って次のことを勧告する。

 (1) 督促される以前に納税を怠っている場合には、未納税額(民事罰を含む)に対し年十二%の利子が納期限から納税した期日まで課せられる。

 (2) 正式の督促(課税あるいは更生決定後)があって納税を怠っている場合には、未納税額(民事罰およびそれに前の利子を含む。)に対して納期限から督促がいって実際納税した期日までの間年二十四%の率の利子を課すべきである。

c 納税期日の延長

 期限内に納税を怠った場合に対する勧告に即応して、税務署によって許容された納期限のいかなる延長に対しても、年十二%または二十四%のいずれかを適用して、同様の利子率が課せられるべきである。すべての場合、簡易化の意味で、利子率を一ヵ月または一ヵ月の端数ごとに一%または二%をそれぞれ計算すべきである。

d 民事詐欺事件の罰則

 現在詐欺事件に適用される唯一の罰則は、その適用に起訴を必要とする刑罰である。詐欺行為は処罰されないで黙認するわけには行かない。各事件ごとに刑罰を課する必要から免がれるため民事詐欺罰則を採用することを勧告する。このような罰則では、納税額の一部分たりとも欠けていた場合それが脱税を意図して詐欺によったときはその不足分を支払う上に、不足分の六十%を支払わなければならない。この罰金はそれが事実上税の一部となるから税と同様な方法で徴収すべきである。

e 帳簿、記録をつけてなかった場合

 個人で正当な帳簿または記録をつけるのを怠ったものに所得税および法人税罰則が適用されることはないらしい。前に示した通り、正当な申告納税には、かような記帳は不可欠の要素である。申告納税が最近実施されたのに鑑み、正しい帳簿に記載を怠った場合、所得税および法人税のもとでこれを刑事犯とするのは恐らく望ましいかもしれない。記録帳簿の現在の不十分の状態で罰則を正当に適用することは困難かも知れない。
しかし将来に徹底的教育運動および正当な帳簿記録をつける必要が広く認識されるように考案された他の活動が実行された後、正当な帳簿記録をつけることを故意に怠った場合刑罰を適用することが適当であるかもしれない。

 勿論、行政手続が改善されるにつれ、罰則に関する他の改正が自ずと示唆されるであろう。したがって、発展しつつある行政および納税者が、成熟するにつれ、その規定の妥当性と公平を保証するため、これらの規定を絶えず検討する必要がある。

9 払戻手続 (Refund Procedure)

 所得税および法人税の課税がより客観的となり、行政作用がより能率的になるにつれて、納税者に支払われる払戻しの数は増大するであろう。このような払戻しは種々の原因によって生ずる。予定申告の税額が最終課税額より多いこと、更正決定を受けた税に関する異議申立において納税者が全体的にまたは部分的に成功したこと、納税申告をもしなければならない納税者が源泉で徴収された税額が実際の税額よりも多いこと等等。したがって、払戻手続はこのように増大した負担に絶え得るように改正する必要がないかどうかを見るために再検討しなければならない。払戻金に支払われる利子は期限内に納税しなかったことに基ずく年十二%の利子と調整されなければならない。払戻請求用紙は容易に利用できるように改正されるべきである。税務署内の事務手続も迅速にこのような請求を取扱えるようにされなければならない。

10 滞納 (Delinquencies)

 現在の所得税および法人税は納税に関する非常に高度の滞納率によって特徴付けられている。
 1949年5月31日現在個人の申告納税者の1948課税年度の徴収税額は千七十七億円で、滞納はほぼ三百五十一億八千三百万円であった。その上、1947年の税額に対する滞納額は六十五億七千万円であった。滞納件数は約三百五十万件であった。

 このような滞納の状態は極めて重大なものがある。正当な税務行政はかような未納の重荷を黙認することはできない。このような滞納を直ちに減少するために厳重な努力が必要である。もし納税をうながす正当で効果的な方策がとられるなら、大多数の滞納者は納税できると予想されている。その他の場合には不当な更正決定による滞納であることが分るであろう。この問題について税務官吏を直ぐに仕事に着手せしめるべきであり未納税を徴収し且つ滞納を合理的な水準にまで減少せしめるために執拗に努力しなければならない。

 将来においては、よく記録をつけることが滞納を防止するのに大いに役立つであろう。税務署の記録は、滞納が直ぐに探知できるように、また、滞納者に直ちに納税を督促できるようにつけられていなければならない。このような敏速は処置は、執拗に努力することが必要だが、税務署の不活発に因って、納税者が依然として納税を怠り続けることを防止することになる。もっと客観的な更正決定と、適当な程度の罰則および利子負担も滞納の減少に資するところがあろう。

11 租税構成の簡素化 (Simplification of Tax Structure)

 行政過程が旨く機能を発揮するかどうかは実体的な租税の構成と手続段階との双方を簡素化できるかいなかに依存する所が大きい。ここで勧告している大巾の改正は租税構成を大いに簡素化するであろう。
同居親族要件の廃止、扶養控除を純所得から控除する方法えの変更、人的控除の増額、予定申告の基準として前年所得の使用 — これら全ての改正は納税者大衆に適用される租税構成の部分を非常に簡素化するであろう。その上、個人が申告を提出する場合の規則は各種の大巾の変更に鑑み、それを簡素化できるかどうか再検討すべきである。税率表ももっと簡素化しその範囲を拡張できるかどうか確かめるために照査されなければならない。

 大多数の納税者がどっちみち必要とするあらゆる様式、たとえば、確定申告書、予定申告書、注意書、被用者の源泉徴収報告書および異議申立書の如きものは簡素化という見地から再検討すべきである。大蔵省はこのような様式を作成するにあたって広告および宣伝の専門家の援助を受けるべきである。そのときには、納税者の反響をみ且つどの部分が骨が折れ面倒であるかを確かめるために、暫定様式について専門家に投票させて実験すべきである。労働組合、協会、商工会議所、農業組合等の関係団体の代表から授言を求めるべきである。同様に、雇用主および被用者に標本式投票を行わせて源泉徴収の機構にどのような改善が必要であるかを確かめるべきである。

[# 付録D C節終わり]