A 煙草専売益金 (Tobacco Monopoly Revenue)

 他のあらゆる間接税よりも飛び抜けて多いものは、政府の煙草製造専売事業よりする純歳入である。この歳入は技術的には税金というよりも寧ろ政府経営事業からの益金という形をとっているが、この益金は税金として表の中に加える方が妥当である。それは民間企業の競争下に於て予期し得る正常利潤を遥かに上回ったもので、1949会計年度に於ける国家予算に於ては千二百億円、即ち総税収入の一割七分に見積られている。

 この莫大な益金は、製品の大部分を生産費および配給費に数倍する価格を以て販売することに由来するもので、それは高価格、少量供給政策である。しかし、この政策、少くともその小量供給策に関する部分は、主として国家財政の分野外のものに対する顧慮によって決定せられているのである。食糧生産に利用できる土地を増加するために、煙草生産を如何なる場合にも厳重に制限せんとするのが日本政府の方針である。

 食糧事情を考慮して一定の限度の煙草栽培用地しか与えられていないので、煙草専売局には三つの採るべき道がある。まず第一に売価を現在のものよりも相当引下げることができるが、それでは需要が供給を上回って、全製品を配給せねばならなくなるであろうがその結果は喫煙者の金銭上の負担軽減になるであろう。

 第二に専売局は供給できる品をやっと売捌ける程度に売価を定めることができる。これは十本入り一箱の小売値段十五円の、最も安い「きんし」を除いて、現在採られている方策である。刻み煙草二種類もまた配給制で、安価で売られている。

 配給の紙巻煙草でさえも、政府は十本入り一箱十五円につき十円余の益金をあげている。
 これは小売値段に対する二百%の税に相当する。十本入り一箱の小売値段五十円の高価品「ひかり」の場合では、政府は一箱四十三円近くの益金をあげてゐる。これは小売値段に対して六百%以上の税に相当する。

 与えられた一定量の煙草を以て採ることのできる第三の方策は、歳入を最大限度に増加しようと計ることである。これは現在のものよりも更に売価引上げ(従って安い煙草の配給廃止)をやってみて、煙草を減じ、価格を引上げて更に多くの純益をあげられるか否かを見出すことである。それができた時には、現在よりも煙草栽培用地を減ずることができるであろう。

 現在の煙草専売政策には第一および第二の方策を併用したものである。われわれは大体のところこの方策を改変することを勧告はしないが、喫煙者が負担せられてゐる税額は印象深いものである。多くの家庭には少くとも一家一人の喫煙者がある筈だから、不均衡はそれ程大きくはないであろう。しかし、日本人消費者のが煙草に費す金額は馬鹿にならない。煙草売上による全収入は1949会計年度に於ては千五百八十億円と見積られてゐる。来年の日本人口は八千二百万と推定されてゐるから、国民一人当りの煙草えの平均支出額は二千円になるものと見込まれる。かくて、今年度に五人家族が煙草に費やす金は一万円、即ち半熟練労務者の約一月分の俸給に相当するであろう。この大きさの家族の実際支出額は勿論その家族を構成する者の喫煙の習慣の程度によって定まり、一万円以下の場合も、それ以上の場合もあろう。この大さの家族には普通一人以上の有所得者または家族或は農事の手伝い人があろう。
 しかし、一家の月収が二万円、従って年収二十四万円の場合においてさえも、煙草に対する支出一万円は収入の四%に当る。この一万円中約七千五百円が煙草専売益金に当るのである。

 更に何等かの国税の軽減が許される時には、その中に最も安い配給紙巻煙草(および刻み煙草)の喫煙者の負担が些かなりとも軽減されることが含まれているようにわれわれは勧告する。この負担は売価を引き下げるか、最低品の品質を改良するかの何れかによって軽減できるであろう。もしも綜合政策が煙草生産額を増加することを許すならば、配給額の増加もまた許されるであろう。これらの措置はまた国内製品の闇煙草に大打撃を与えるであろう。

 多くの国々においては、煙草による歳入は煙草工業を民間の手に委ね、生産者または小売人に課税することによって得られている。日本における煙草事情を完全に批判するには、これら二つの方法のもつ相対的利益を分析しなければならないであろうが、時間もないし、また現制度下に得られている多額の歳入に変更を加えることを示唆する根拠は一見したところ見当らないので、本報告はその問題には全然触れないことにする。

 前記の益金の数字はほんの概数として考えてもらはねばならない。専売局の経理方法をは初等程度に近いもので、目下それは改められつつある。かかる改善を加えることは内部管理の見地からのみならず、租税政策の見地からも重要である。益金の形において各種喫煙家がどれだけの「税」を支払うことを要求されているかが分るまではこの分野における政策についての勧告もまた確実性を欠くであろう。

B 酒税 (Liquor Taxes)

 中央政府が徴収する酒税は九種類の酒類に対する一連の従量税率からなっている。これらの税率は一升(一・八リットル)(三・一八バイント)何円といったふうに言現わされる。

 酒類の一部は低額をもって農民および一定の労務者に配給せられている。低い税率がこれらの販売には適用されている。自由販売の非配給品には低い税率の他に加算税がつく。低い税率の酒税は醸造者および蒸溜者から徴収する。加算税は指定免許卸売業者から徴収せられる。これらの卸売業者はごく最近にできたものである。1949年7月1日以前は酒類はすべて政府の酒類配給公団に販売せられ、公団がそれを小売業者に転売していたが、この公団は7月1日に廃止になった。

 配給品、非配給品共に、酒類の税率は1949年5月に引下げられた。引下は配給酒の場合には相当大巾で、自由販売酒の場合には極めて大きかった。例えば、配給酒中の第二級清酒(米を醗酵させて造った酒類)の税は一升二百四十五円から百八十円に、即ち六十五円、二十七%引下げられた。焼酎(甘藷から造る酒類)の税率は一升二百十五円から百七十四円に、即ち十九%下がった。麦酒の場合には百四十七円から百二十六円に、即ち一割四分下がった。

 自由販売酒中では第二級清酒の税は一升六百三十五円から四百二十二円に、即ち二百十三円、三十四%下がった。焼酎の場合には引下げは極めて大幅で、一升五百八十五円から二百五十七円、即ち五十六%下がった。麦酒では引下げは一升三百六十七円から二百六十一円、即ち一升につき一〇六円で、二十九%下がった。

 この措置は収入を最大ならしめるという理由で支持せられた。1948-49会計年度全酒造高の三十五%が自由販売酒で、六十五%が配給された。
今会計年度においては、生産高の二十七%だけが配給され、残りはこれよりも高い統制価格で自由販売になる。米、麦、甘藷、といった原料品に値上りが合ったけれども、配給酒は去年と同一値段に据置かれるようにされている。

 自由販売酒に関しては、今年度は昨年度に比較して相当に量が増加していることは勿論であるが、税率は(イ)品物を全部売払い得る販売価格を算定し、(ロ)生産費、他の税金および卸売および小売の差益を引去って定めたといわれる。

 収入を最大化せんとするこの計画からはどんな結果が得られるであろうか。この春作られた1949-50年度予算では酒税収入は六百五十億円と見積られてある。これは前会計年度の実収、五百五十億円とは余り変りがない。実際価格では円価の下落を考えると、今年度に見積られた酒税収入は実際には1948-49年度の徴収額よりも少い。しかし、高価格で自由販売に向けられる酒類が昨年度は僅か三分の一であったのに対して、今年度は四分の三が向けられるであろう。

 収入を実際に最大限にするような税率はこれを明確に知ることは困難でありこの点についての如何なる勧告も大抵は個人的判断によらなければならない。
 今日、日本で税率を引上げれば、酒税から歳入が得られるというのがわれわれの意見である。その引上げを1949年5月以前に行われていた水準に一部分だけ復すべきか、全面的に復すべきか、或はそれ以上の水準とすべきかは、更に研究を要する問題である。「われわれの受けた印象では税率は相当に引上ぐべきである。これらの税率は従量税率で従価税率ではない。1948年4月から1949年5月まで円は購買力を減じたので、実質価値の点では従量税率は段々軽くなった。かくして、購買力で表わせば、酒税の率は1948-49年度中に自動的にまた大幅に下り、その後更に1949年5月に法律によって引下げられた。

 かかる批判に対して普通になされる抗議は脱税である。以前の高い税率においては現在の税率に於て推定されるよりも脱税が多かったと言われている。酒税の脱税には二種類ある。農民の自家密造と都会での闇売である。自家密造脱税者は諸外国における経験が示す如く如何なる場合にも有効に制限できそうにない。都会地における密造と闇売に関しては、過去に於て取締実施に充分の力が示されたかどうか疑わしい。とにかく今年は昨年よりもわずかに二十%だけ多く収入をあげると思われる点に酒類の税率と消費量とを定めている理由として脱税取締の困難なことを仮定するのは賢明ではない、これに反して個人所得税は昨年よりも六十%以上織物消費税は五十%以上、物品税は六十%以上の増収が期待されているのである。

 今年度の六百五十億円の見込は補正予算の或る種の準備に於て七百二十億円に引上げられつつある。

 全く、酒類は今日の日本で特に重い税に適したものである。それは贅沢品である。煙草にも更に増して、酒類は富裕者の特別消費物であり、特にそれ自身所得税法人税の脱税の道である会社の催す豪華な宴会で消費される物である。

 現在の税率で酒税はどの程度の重税であろうか。これを最もうまく測定するには、税の全部が消費者に転化されるものと想定して、税を小売価格のパーセンテイジとして表せばよい。六種類の自由販売酒一つ一つにこの計算を用いるならば、甘藷製の焼酎の六十%余の低さから特級清酒の約八十%の高さに至るまで税率が並んでいることが分るであろう。

 これらのパーセンテイジは消費者の払う価格に関係するものである。従って七十五%の税は、この方法で計算すれば、税抜小売価格に対して三百%の税に相当する。

 これらの税率は、(煙草専売益金を除き)一般に消費税と比較すれば高いけれども、他の国々の酒税と比較すれば法外に高いものではない。例外は麦酒で、日本では消費者価格の約七十五%の課税がされているが、他の諸国では多くの場合税率が遥かに低い。

 国税の他に地方団体が課税する小売価格に対する五%の税がある(第十三章参照)

 われわれは1949暦年末までに、配給酒、自由販売酒共に、現在の酒税の税率を大幅に引上げることを勧告する。

 更にわれわれは、本報告書の他の部分で勧告するように、酒類小売価格に対する地方税が廃止される時には直ちに国税たる酒税の税率を更に引上げることを勧告する。これらの措置によって得られる増収は今暦年度には五十億円、1950-51年には百五十億円またはそれ以上、1951-52年度には二百億円またはそれ以上であろう。

 酒税を取扱う税務官吏の質と数とには大幅の向上および増税が必要である。能う限り米穀の不法使用に対する一般的取締りは強化されねばならない。酒税は日本において取締りの努力を大いに増やすことによって多大の利益のあがるという点で四ないし五種の最も重要な税の一つである。

 この方面における行政の現状を改善する第一歩として、国家が酒の卸売統制を再開することを勧告する。今年まで国の酒類販売会社(公団)が卸売を独占していた。この公団は徴税とは無関係の理由で廃止せられて、免許卸売業者がこれに代った。普通には、かかる統制方策の決定は租税上の要請によって圧倒的に、否相当程度さえ、影響されるようなことがあってはならないと信ずる。しかし、この場合は租税の問題が勧告を裏付けるに足る程重大な事例の一つである。

 次表は新旧酒統[# 税のまちがい?]率の比較表である。

一 配給酒一升の税率
1949年5月前 1949年5月以降 差引減
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二 非配給(自由販売)(基本税に加算税を加えたもの)

[# 表中の数字は漢数字を算用数字に置き換えました]

[# 第9章おわり]